2009年03月17日

本>文芸 「予告された殺人の記録」 作:G.ガルシア=マルケス

「予告された殺人の記録」,作:G.ガルシア=マルケス,新潮文庫です。
町をあげての盛大な婚礼の翌朝、一人の男が切り刻まれて殺された。
殺した男達と、殺された男は、昨夜共に酒を酌み交わし、共に騒いだというのに。
しかもその殺人が行われようとしていることは、様々な形で予告されていたというのに、
結局、その殺害は実行されてしまう。


物語は、そこにいたるまでにどのようなことが起こっていたのか?どのような人がどのようなことを感じ,思い,判断したのかを丹念に記述し,語られています。
事件が起きた時代と、その20年ほどのあと、事件がどのように、そしてなぜ起こったのかを調べようとする”私”の行動を織り交ぜつつお話が進みます。
それを語る中で、人間の(というより人間社会の)めぐり合せの悪さとか、個々の人間の弱さ、卑怯さ、臆病さからくる行動、ある種の無責任さ等々。。。人間とその共同体、組織といったもののあらゆる側面が、重厚に、そして重層的に描き出されていて、単純にこうであったという感想などとても書けないといったところです。
しかし、これは本当にすばらしい作品だと思います。 中篇というくらいの薄い文庫なのですが、これほどの密度を感じさせる作品はそうそう無いのでは?と思います。


この作品の誰もが、そんなに激しい憎しみや誰にも止められない意思を持って行動したというわけではないのです。 しかし、殺害を実行したものも、やりたくない。 しかし、やらなければ自分が周りから嘲笑を受けるかも?という恐れから(そこに弱さがある)、この行動に出たように思えて、個々人を有形無形に縛っている、共同体や組織の”常識”とか”こうあるべき”といったもの怖さを感じました。 そしてそこから自由であることが如何に難しく、時に勇気がいることか・・・・
この作品、人間のあまりの多くの側面を描き出しているために、全てを語ることなどできはしないのですが、読後約3週間たって、このことが大きく気になっています。


もう一つは、人間がどんなにその考え方を近代的に、または、クールに割り切って行動しようとしても、その生まれ育った環境で、教えられ、刷り込まれた様々な”当たり前””常識”といったものからは、そう簡単に自由にはなれないこともこの作品を読んで痛感します。
この作品で本当に殺人が起きた原因は、結局明確には判らないまま(少なくとも私には)だったのですが、直接のきっかけは、婚礼の夜、花嫁が処女でなかったことから、花嫁を家に帰したことに起因しています。
この花婿は、他の街から来て、非常にお金持ちで、何事もクールに、お金で解決しようとしていて、あまり因習にとらわれた思考をしないような感じに描かれているように思えたのですが、結局”花嫁は純潔でないといけない”という、今を生きている我々の感覚からすると、やはり古臭い常識にとらわれて、それゆえに、大騒ぎをし、この悲喜劇の幕を実質的に開けてしまいます。
そして我々も、、、彼らと同様やはり生まれ育った社会の当たり前に余りに縛られているでしょう。 私なら、不惑を超えるまでに生きてきた間の様々な刷り込み、昭和の後半〜平成という時代、大阪に生まれ育ったという場所的なこと、両親から受けた様々な教え等等。
そういった中で、多くの”当たり前”を持っていて、それに縛られているはずです。
(岡本太郎さんの言葉をお借りすると、そういったものの泥にまみれているのです。)
おそらく様々な場面で、この作中の人物達と同じとらわれがあることを、読んだ誰もが感じるのではないかと思います。


この作家さんは、「エレンディラ」という作品を読んで、その世界観にひどく惹かれて、なにかもう一作と思って、買ってみた作品なのですが、これも個人的には大当たりで、ここ最近読んだ小説ではダントツにすばらしい作品だと思っています。
始めは、ちょっと読み進みにくいところもあるのですが、読んで決して損は無い、すばらしい作品と思います。 ご興味を持たれた方は是非、お手にとって見てください。


posted by 大阪下町オヤジ at 02:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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