2008年01月20日

本>ノンフィクション 「「ひかりごけ」事件」 作:合田一道

「「ひかりごけ」事件」−難破船長食人犯罪の真相−,作:合田一道,新風舎文庫です。
非常に重いものがある作品。罪を犯すとはどういうことなのか?何をもって罪かそうでないかを誰が又は何が判断するのか?等々非常に様々なことを考えさせられます。 読み終えた今も、それらの疑問の一つたりとも私の中では答え(又は判断)がつかないものばかりです。 おそらく私のアホな頭では、一生考えても明確な線引きなど出来る物ではないでしょう。

この作品は、食人を扱って、人間が罪を犯すこととは?という意味に肉迫した作品「ひかりごけ」の元になった実際の食人事件を追ったドキュメンタリー作品です。

そもそもこの作品に手を出したのは、昔,映画の「ひかりごけ」を見て、それが非常に印象に強く残っていたので、その事件のノンフィクションということで手を出してみました。

この事件の簡単な概要は、太平洋戦争末期、真冬の北海道の知床で徴用された船が難破する。 乗組員のうち生き残ったのは、船長ともう一人の船員のみ。 二人は、食料もほとんどなく,救助される見込みも立たないまま、極寒の中で命を繋いでいたが、船員は死亡してしまう。 船長は、最後には、船員の肉を食べて命を繋ぎ、極寒の地を歩いて渡り、どうにか救助された。 当初は、厳しい環境を生き延びた“奇跡の神兵”ともてはやされるが、その後、現場から人骨を詰めた箱が発見され、船長の食人の事実が明らかになり、かれは一転して彼は裁かれることになる。

この作品は、著者が、15年もの長きに渡り船長に取材を続けた結果をまとめた第一部“裂けた岬”とその後、事件の周辺、「ひかりごけ」という作品がどう書かれ、現実とはどう違いがあったのか、またその時の(戦時という時代)の報道も含めた様々な問題について記述した第2部“知床にいまも吹く風”から構成されています。

極限状態に置かれた、人間の偽らざる心情の叙述、生き延びた後の長い生をそれでも生きなければならなかった船長の苦しみ。 名作といわれる「ひかりごけ」の存在ですら、彼を苦しめる物でしかなかった・・・。 先にも書きましたが、あまりに多くの考えさせられることを含んだ作品であるため、書き出すと、ものすごく長くなってしまうので、一つのことだけに言及したいと思います。

それは、船長が、生還した後の一生の間、決して自分で自分自身を許すことはなかったということです。 取材をした著者もそのことを何度も言っているようです、法律的にもこの船長のような極限状態に置かれた場合においては罪には問えないこと、また宗教的な解釈なども紹介しているようなのですが、船長自身は、決して自らを許しません。 “人を食ったのだ、そんなことは許されることではない、決して許されない事なのだ”と繰り返します。

私ももちろんこの船長の食人と言う行為を責めることは出来ないと思います。同じ状況になったら同じことをするかもしれないと思います。 しかし、船長自身が自分を許さない。
法律,自分でも同じことをするだろうという他人の慰め,宗教的な解釈で許されている,等々、世の中や他人の解釈や判断がどうかは関係なく、船長の心が自分を許していない。 非常につらいことと思います。(その苦しみの深さは私には想像も出来ないほどの物でしょうが・・・)

私なら、どこかで、“しょうがなかったなんだ”と自分がそこから逃げるうまい言い訳を見つけ出して逃避してしまいそうな気がします。 そうでないととても生きていけないのではないかとも思います。

この船長の心情は、ありふれた、またはちょっとした罪であれば、その心情は自らを厳しく律しているという意味で、賞賛に値する物と思うのですが、その厳しさゆえにその生涯、計り知れない重荷を背負い続けることになってしまう。
こんなこと安直に書くのもどうかといわれそうですが、人生のままならなさということをつくづく考えさせられます。


このほかにも、もっともっと考えるべき重いテーマがこの作品にはあると思いますので、ぜひ多くの方に一読を(というよりしっかり読むことを)お薦めしたい作品です。 読んでいて心地よい作品では当然ありません。一部の資料写真は不気味ですらありますが、一度かじりついてみるだけの価値は十二分にある作品と思います。 


posted by 大阪下町オヤジ at 02:58| Comment(0) | TrackBack(1) | 本の雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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